| 奥村康(おくむらこう)順天堂大学医学部免疫学特任教授(医学博士)と 上久保靖彦(かみくぼやすひこ)京都大学特定教授が、 新型コロナウイルスに対する緊急記者会見を行いました。 そこで、コロナに関する新発見を発表! 「コロナの第二波はこない」 世界各国は、日本の新型コロナウイルスの感染者数や死者数の少なさに困惑しているとか 京都大学の上久保靖彦教授は「既に日本人はワクチンを打っているのと同じ状態」と指摘 小池都知事は4日に「厳重な警戒必要」と発言したが同教授は「脅威は終わった」と断言 三井住友フィナンシャルグループ様のご支援により、30台の全自動PCR装置を導入しました。装置の選定や運用については京都大学医学研究科・臨床病態検査学の長尾美紀教授にご指導頂いています。これらの機器は、大阪府、京大病院および関連病院、大阪市大病院に設置済み、もしくは設置予定です。これらの機器を利用したPCR検査等の結果は随時、公表されます。京大に設置された機器は、京都市内で発生した院内感染への対策等で大活躍しています。大阪でも活用されることを願っています。京都大学医学研究科・臨床病態検査学, AI・アドバイザリー・ボードの第1回会合が本日、開催されました。このアドバイザリー・ボードのミッションは、内閣府による「AI 等技術を活用したシミュレーション事業」https://corona.go.jp/simulation/に対して、専門外の立場からアドバイスをすることです。第1回の会合では、事業に参画するプロジェクトの概要が紹介されました。私たちからは以下の提言を行いました。, AI 等技術を活用したシミュレーション事業への期待と感染再拡大を受けての提言2020 年 8 月 5 日AI アドバイザリー・ボード 委員黒川 清/安西 祐一郎/永井 良三/山中 伸弥, グローバルに情報が公開される時代にあって、新型コロナウィルス(COVID-19)が世界的なパンデミックとなり、国内外のさまざまな学術研究が参照されるとともに、各国のCOVID-19 対策や、医療提供システム、公衆衛生施策などが比較検証されつつある。多大なる貢献を果たしている学術研究者等の専門家に敬意を表したい。このような時代的背景のなか、我が国における各種の対策を、AI シミュレーション等を用いて効果分析し検証していくことは、国内におけるCOVID-19 の第二波、三波に対応するうえで極めて重要であり、「AI 等技術を活用したシミュレーション事業」の開始を決定した西村国務大臣のリーダーシップに敬意を表明する。本事業の推進は、感染症やシミュレーションの専門家等から構成される検討会議と専門家委員会が行うが、我々アドバイザリー・ボードは、①国民目線、②未来志向及び③海外協調を基本的認識として、最大限の貢献を約束する。一方で、本事業の実施が決定された第一波収束直後から、状況は日々変化しており、第一波に対する検証もさることながら、第二波の襲来とも呼べる感染再拡大への対応が喫緊の課題となっている。このように感染者が全国的に再増加している現状に鑑み、本アドバイザリー・ボードのミッションの範囲を超えることを承知の上で、本事業のあり方や本アドバイザリー・ボードの果たすべき役割について、西村大臣に提言を行いたい。本事業に対する期待対策効果分析へのAI・シミュレーションの導入に関する検証・提言を行うには、第一に、感染拡大への対策と経済効果への対策のそれぞれ、および両対策の間の関係に関する対策について、国内外においてこれまで取られた対策、およびこれから取られると予期される対策のうち、影響が大きいと考えられる対策をリストアップすることがまず重要である。第二に、これらの対策について、どのようなデータがどのようにして収集され、活用されてきたのか、また、どのようなモデルがどのようにして検討され、活用されてきたのかを検証することが重要である。第三に、第一、第二の分析を踏まえ、各対策の検証・提言について、AI とシミュレーションの導入が実際に効果をあげられるかどうかを検討することが重要である。AI とシミュレーションの手法は万能ではなく、感染症拡大防止と経済効果増強に対してこれらの方法の効果があげられる課題に集中的に取り組むべきである。また、こうした課題に集中的に取り組んでいることをしっかり広報すべきであり、そうでないと、「(現実にはモデル構築やデータ収集の段階で恣意性が多々入る可能性があるにもかかわらず)あたかも科学的にみえてしまう」AI・シミュレーションを導入しさえすればCOVID-19 の蔓延が防止できるかのように、世間が誤解する可能性がきわめて高いと考えられる。第四に、AI とシミュレーション、およびモデル構築には多くの考え方があり、また、超高速のスパコンを用いなくても検証や予測ができる課題は数多くあると考えられる。課題の多様性、データのスパース性、モデルのパラメータ敏感性等を考慮すると、コンピュータのスピードがネックになる応用はむしろ限られており、現在多くの研究者によって進められている手法を迅速に結集するとともにそれらの適切な検証と関連づけを行うことが重要であり、そのためには、多くの研究者が迅速に参加できるプラットフォームを迅速に構築して運用することが考えられる。本事業における「専門家委員会」は、これらの点を重視していただきたい。また、「専門家委員会」はこれらの点に鑑みて重要と考えられる検討課題に焦点を当て、重点的に進めていただきたい。また、今後の研究事業やその検討にあたっては、異なる意見や仮説を持つ専門家を含めたり、海外の専門家にも参画してもらうなど、透明性や多様性があり、科学的に批判的吟味を重ねられる体制構築をお願いしたい。, 7月16日ジョギングエチケットについて、様々なご意見を頂き有難うございます。これからの季節は特に暑くなります。マスク等をしたまま激しい運動をすることは熱中症などのリスクもあり危険ですので、注意が必要です。私は走るコースや時間を工夫し、人が少ないところで走るようにしています。周りに人がいないときは覆いを外していますが、人がいらっしゃるときにはさっと覆い、人がいなくなったらまた外すようにしています。最近は特に感染者数が増えてきており、不安を抱えている方も多いと思います。周囲への配慮をすることで、ジョギングをする人も、街を歩く人も、お互いに気持ち良く時間を過ごすことができるよう、心がけています。周りに人がいない時はマスク等は必要ありません。誤解を防ぐため、4月16日に投稿した動画は削除いたしました。5月1日下記は、休日の皇居や大阪城など、多数のランナーや散歩をされる方が集中する場所を念頭に置いて提案しています。人がまばらな時のジョギングや、グランドでの屋外スポーツに関する提案ではありません。しかし、周囲にたくさん散歩の方がおられる時は、エチケットととしてマスク等を着用することにより、お互いに気持ち良い時間を過ごすことが出来ると思います。夏用の涼しい製品も販売されています。これからは特に蒸し暑くなっていきます。私は走るコースや時間を工夫し、周りに人がいないときは覆いは外し、散歩の人等がおられるときはさっと覆うようにしています。4月16日外出自粛が続いていますが、時々のジョギングや散歩はOKと言われています。以前より、ジョギングをする人が増えているようにも思います。新型コロナウイルスは感染しても多くの人は無症状です。発症する場合も、潜伏期にすでに感染力があると考えられています。ジョギングできるくらい元気でも、実は感染しているかもしれません。走って大きな息をするときは、咳やくしゃみと同じように周囲への配慮が望まれます。マスク、もしくはバフ、ネックゲイター等でジョギングエチケットを心がけましょう。, 感染者の増加が続き、残念ながら第2波と呼ばざるを得ない状況となってきました。第1波とは異なり、感染者の多くは若者で、重症者も限られています。しかし、感染拡大の傾向を止めなければ、感染者が高齢者に広がり医療現場への負担が急増する可能性があります。感染を抑えながら社会経済を動かすという非常に難しいかじ取りが求められています。しかし今は、感染阻止の方向にかじを切る必要があるのではないでしょうか。, 緊急事態宣言後、いったんは減少していた感染者数が再び増加しています。今、私達が見ているデータは、約2週間前の状況を反映しています。今のところは感染者の多くは軽症者で医療現場への負担も少ないようです。しかし、この2週間で私たちの行動がさらに緩和しているとすれば、さらに感染者が増えてしまうかもしれません。自分を、周囲の大切な人を、そして社会を守るため、自分たちの行動を見つめなおす必要があります。, 緊急事態宣言が全国で解除されました。東京でも一日の感染者は一桁となり、関西ではゼロの日も多くなっています。国民それぞれの努力の成果です。しかしウイルスが消失したわけではありません。油断するとすぐに勢いを取り戻します。今はまだ青信号の状態ではなく、黄色の点滅信号、すなわち注意して進め、の状態です。賢い行動を粘り強く続け、ウイルスとの共存を図りましょう。, 感染者の急増で医療現場に負担がかかっています。私達は普段、社会に守られています。社会を支える人々に守られています。医療、介護、物量、公共交通などを担うエッセンシャルワーカーの方々です。これらの方々は、感染の恐怖と戦いながら社会を支えておられます。今、私たちに出来ることは、ステイホームを出来るだけ実践し、感染拡大にブレーキをかけることです。国や自治体からの指示を待つことなく、自ら賢く行動し、社会を守る必要があります。, 皆さんにお願いがあります。今年のお花見は、人混みは避け、近くで咲いている桜の周りを散歩するだけにしてください。, 多くの人が集まり、座り込んで宴会したりするのは、屋外であっても飛沫や接触感染のリスクがあります。ウイルスはすぐそこにいるかもしれません。感染すると、自分は大丈夫でも、周囲に広がって、リスクの高い方には生命の脅威となります。, 桜は来年も必ず帰ってきます。もし人の命が奪われたら、二度と帰ってきません。1人1人が油断せず、万全の対策を取って頂きますよう、お願いいたします。(研究所における所長便りより抜粋), 春の高校野球の中止が決まりました。出場が決まっていた選手達が「夏を目指します」と気丈に話す姿に、心を打たれました。中止の理由は選手の安全を守るため、と報道されています。しかし、もしこの世の中に高校生しかいなかったら、新型コロナウイルスによって甲子園や高校総体が中止されることは無かったと思います。このホームページでは、新型コロナウイルスが、季節性のインフルエンザなどこれまでの感染症とどう違うのかを、お伝えしていきたいと思っています。, PDFファイルを表示研究者・臨床家として新型コロナウィルス感染症に関わる山中、押谷、長谷川、大曲の4名は、新型コロナウィルスのすべての感染者と、予防や対処がとりわけ難しい医療従事者や医療施設に対する偏見や差別が広がっている日本社会の現状を憂慮し、報道機関への協力と協働を求める「新型コロナウィルス感染症対策に関する、研究者・臨床家から報道機関への要望書」を、2020年4月24日、一般社団法人日本新聞協会、ならびに一般社団法人日本民間放送連盟に提出しました。二つの団体におかれてましては、問題の重大性と緊急性を真剣に受け止めて頂き、二団体合同のワーキング・グループを設置して頂きました。その後、ワーキング・グループと私共4名を含む専門家と二度の意見交換の機会を設けて頂き、2020年5月21日、二団体による「新型コロナウイルス感染症の差別・偏見問題に関する共同声明」を公表して頂きました。迅速なご対応に深く感謝申し上げます。新型コロナウィルス感染症の問題はこれからも続きます。感染者や感染施設に対する差別や偏見の問題もすぐにはなくならないと考えられます。報道機関の方々と、私たち専門家が、感染者や感染施設に寄り添い、みながともに手を携えて生きることのできる、やさしい社会を実現できるよう、引き続きのご協力とご協働を、あらためてお願い申し上げます。  2020年5月22日山中伸弥(京都大学教授)押谷仁(東北大学教授)長谷川好規(名古屋医療センター院長)大曲貴夫(国立国際医療研究センター国際感染症センター長). copyright © 山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信 some rights reserved. 以下、朝日新聞デジタル版(2020年7月2日 9時00分)から。 抗体だけで免疫を語ると道を誤る。免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんこう断言する。「日本のコロナ対策に関する議論には、いくつか大きな誤解がある。 ブログを報告する, 「「一斉抗原検査で「見える化」を コロナ対策で提言 東京医科歯科大学医学部付属病院救命救急センター長…. 京都大学iPS細胞研究では、京都大学医学部、京都大学ウイルス再生研究所、国立感染研研究所、大阪大微生物研究所、大阪市立大学、大阪府等と連携し、新型コロナウイルの免疫学的検討、治療法やワクチン開発に向けた研究を行っています。その一部が日経新聞で紹介されました。, 普通の病気は、患者さんや家族を苦しめます。しかし、新型コロナウイルスはより多くの人を苦しめています。, ウイルスへの対策は、有効なワクチンや治療薬が開発されるまで手を抜くことなく続ける必要があります。1年以上かかるかもしれません。マラソンと同じで、飛ばし過ぎると途中で失速します。ゆっくり過ぎるとウイルスの勢いが増します。新型コロナウイルスは強力です。しかし、みんなが協力し賢く行動すれば、社会崩壊も医療崩壊も防ぐことが出来るはずです。今、私たちが新型コロナウイルスに試されています。私たちの団結力を見せつけなければなりません!, 下記は、休日の皇居や大阪城など、多数のランナーや散歩をされる方が集中する場所を念頭に置いて提案しています。人がまばらな時のジョギングや、グランドでの屋外スポーツに関する提案ではありません。しかし、周囲にたくさん散歩の方がおられる時は、エチケットととしてマスク等を着用することにより、お互いに気持ち良い時間を過ごすことが出来ると思います。夏用の涼しい製品も販売されています。これからは特に蒸し暑くなっていきます。私は走るコースや時間を工夫し、周りに人がいないときは覆いは外し、散歩の人等がおられるときはさっと覆うようにしています。, 新型コロナウイルスに対する対策は微妙な手綱さばきが求められます。緩めすぎると感染者の急増と医療崩壊を招きます。締めすぎると、休業自粛をお願いしている方々の生活が崩壊し、また抗体を持つ人の数がなかなか増えないため、第3波、第4波に対して脆弱になります。一人から何人に感染が広がるかを示す実効再生産数(Rt)を1未満で維持することが目安になります。Rtは統計や公衆衛生の専門家でないと算出できないと思い込んでいましたが、昨日に紹介した論文でエクセルを使って算出する方法が報告されています。そこで、専門外の科学者がRtを計算できるか試みてみました。Rtは、国や自治体の対策方針を決める重要な指標です。複数の研究者が独自に算出し、科学的議論に基づいた政策決定が健全と思われます。問題提起のために、専門外ではありますがあえて計算してみました。私の理解不足等による計算ミスもあり得ますので、あくまでも参考値としてお示しします。, この結果は、あくまでも専門外の私が1つの論文で報告された方法に基づき計算したものであり、専門家の方から見るとお叱りを受ける点も多いと思います。, しかし、大阪府民である私から見ると、大阪府のRtが4月21日に1を下まわり、5月1日現在で0.6程度という計算結果は、府民の努力が報われているようで嬉しく思います。この値が続くようであれば、経済活動等を少し緩和出来る可能性を期待します。しかし油断は禁物で、緩めすぎるとRtはあっという間に1を超えると思います。, 京都市も市民の努力で4月16日以降、Rtの平均値は1未満とい結果です。しかし95%信頼区間の上限は1以上という結果ですので、努力を維持する必要がありますし、iPS細胞研究所でも活動を引き続き普段の約20%に抑えたいと思います。, 北海道は、4月11日の段階で2.7という計算結果でしたが、道民の皆様の頑張りで、5月2日には1.12という計算結果です。まだ1を超えていますので、引き続きの頑張りが必要と思われます。, 東京では、新規感染者を見つけるための検査数の実態を知ることが出来なかったため、Rtの計算は断念しました。, iPS細胞研究所での新型コロナウイルス研究が日経新聞で紹介されました(下記も参照), 西浦博先生と対談させて頂きました。対談の一部を取り上げ、真意が伝わっていない報道もあります。ぜひ直接ご覧ください。, ワシントン州におけるPCR検査陽性率ーワシントン大学ウイルス学部門だけで月5万検体の検査, Googleの行動解析をアップデートー日本は欧米より緩やかな制限で最初の危機を乗り越えようとしている, 米国日本人医師会・柳澤会長のウェビナー(米国時事通信社主催)-軽症者施設での十分なケアを, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61603380W0A710C2TJM000/. 京都大学iPS細胞研究では、京都大学医学部、京都大学ウイルス再生研究所、国立感染研研究所、大阪大微生物研究所、大阪市立大学、大阪府等と連携し、新型コロナウイルの免疫学的検討、治療法やワクチン開発に向けた研究を行っています。その一部が日経新聞で紹介されました。 抗体だけで免疫を語ると道を誤る。免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんこう断言する。「日本のコロナ対策に関する議論には、いくつか大きな誤解がある。抗体だけが免疫だと短絡的に考えるのは誤りだ。また、(一定率以上の人が感染すれば、それ以上感染が拡大しない)集団免疫は、新型コロナウイルスでは獲得できない」という。免疫を十分に発揮する方法も含め、宮坂さんに聞いた。, 抗体なし=感染リスク高、ではない ――抗体に注目しすぎる議論はやめにしようとおっしゃっています。どういう意味でしょうか。 「先日、厚生労働省が抗体検査の結果を発表し、東京で新型コロナウイルスへの抗体を持っている人は全体の0.1%だと発表されました。そうなると、残りの99.9%は抗体がないから感染する可能性があると考えませんでしたか」 ――思いました。そうではないのですか? 「体の抵抗力つまり免疫といえば、抗体だと考えるから、そう思うのですが、それは20年前までの古い考えです。新型コロナウイルスに関しては、抗体は免疫機構の中でそんなに大きな役割を担っていないかもしれません。回復した人の3分の1はほとんど抗体を持っていないという研究結果もあります」 「人間の免疫はもっと重層的です。まず、人体が持つ免疫機構を説明しましょう。免疫機構は、自然免疫と獲得免疫の二段構えです。自然免疫は生まれた時から備わっているもので、皮膚や粘膜の物理的なバリアーやそこにある殺菌物質が病原体を殺す化学的なバリアーがあり、病原体の体内への侵入を防ぎます。バリアーが突破されても、続いて白血球の一種である食細胞が病原体を食べて殺してくれます。ここまでが自然免疫です。食細胞は全身に分布し、常時、異物の侵入を見張っています。いわば城のいたるところでたくさんの足軽が槍(やり)や刀を持って常時見回りをしていて、外敵を見つけたら、その場で撃退してくれるようなものです。病原体が侵入して数分から数時間のうちに発動します。だから、抗体など持たなくても、自然免疫が強ければ、自然免疫だけで新型コロナウイルスを撃退できる人もいるのです。ここが完全に見落とされています。, 自然免疫で新型コロナウイルスを排除できなかったら、獲得免疫の出番です。獲得免疫は発動するまでに数日かかります。最初に刺激されるのは、ヘルパーTリンパ球で、獲得免疫の司令塔です。これがBリンパ球に指令を出すと、Bリンパ球は抗体を作ります。一方、ヘルパーTリンパ球が兄弟であるキラーTリンパ球に指令を出すと、キラーTリンパ球はウイルスに感染した細胞を殺します。獲得免疫はいわば本丸を守る役目の高級将校ですね。 ここで大事なのは、抗体はウイルスを殺しますが、ウイルスに感染してしまった細胞を殺すことはできないのです。抗体は大きなたんぱく質なので細胞の中には入れず、細胞膜の中に隠れているウイルスは殺せません。細胞の外にある、これから細胞に感染してやろうというウイルスや、感染細胞から放出されるウイルスは殺せますが、すでにウイルスの侵入を許してしまった細胞は殺せません。それができるのは、キラーTリンパ球なのです。キラーTリンパ球は抗体と同様に重要です。 そして、人間の体は、自然免疫が強いと獲得免疫も強いという性質があります」, 自然免疫だけで撃退できる人も ――つまり、抗体の保持率イコール既に感染して治った割合ではないと? 「その通りです。先ほど述べた、感染者の3分の1が抗体を持っていなかったか、あるいはごくわずかしか持っていなかったのは、自然免疫だけでウイルスを排除したか、キラーTリンパ球が活躍して感染細胞を殺した結果、回復したと考えられます」 ――どのくらいの割合の人が自然免疫だけでウイルスを排除できるのでしょうか。 「それは分かりません。我々全体の10%くらいは自然免疫だけで新型コロナウイルスを排除できるのではないかと私は推測しています」 ――キラーTリンパ球の活躍でウイルスを撃退した患者さんは何割くらいになるのでしょうか。 「こちらも分かりません。一般的には、ヘルパーTリンパ球は、抗体を作るBリンパ球にもキラーTリンパ球にも同じように作用すると思われます。インフルエンザウイルスが侵入すると、抗体もキラーTリンパ球も同程度作られます。キラーTリンパ球がどれくらい作られたのかを測定するのは、生のウイルスを扱う必要があり、安全性が高い研究施設でないと測れません」, 抗体にも「悪玉」がいて・・・ ――抗体だけではすでに感染した人の割合を知る指標にはならない、感染細胞を殺すキラーTリンパ球の量も簡単には測れない。私たちは何を基礎に議論を進めればいいのでしょう。 「その前にもう一つ、抗体の役割についても、大きな誤解があります。抗体であれば、すべてウイルスを撃退すると考えていませんか」 ――抗体は、病原体を殺し、排除する役割を持つのだから、そう考えるのは当然では? 「そうではありません。抗体は3種類の振る舞いをします。一つは、みなさんがよく知っている、ウイルスを攻撃し排除する抗体、私はこれを『善玉抗体』と呼んでいます。逆にウイルスを活性化させる抗体『悪玉抗体』もあれば、ウイルスを攻撃もしないし活性化もしない『役なし抗体』もあるのです。, 免疫、半年程度で消える? 武漢医科大学で感染者の血液を調べたところ、感染者のうち無症状の人は抗体量が少なく、重症者は発症後何日たっても、無症状、軽症の人より常に抗体が多い傾向がはっきりと示されました。善玉抗体がたくさんできてウイルスを撃退すれば軽症で済むはずなのに、重症者は常に抗体が多いということは、新型コロナウイルスは悪玉抗体をたくさん生み出し、抗体がウイルスの増殖を助けていると考えられます。 病原体によって、3種類の抗体のでき方に差があります。多くのウイルスは獲得免疫が働くと善玉抗体がたくさんできるのですが、エイズは役なし抗体が圧倒的に増えます。また、3種類の抗体のでき方は、同じ病原体に感染しても個人差があります。善玉抗体を作りやすい人は治りやすく、悪玉抗体や役なし抗体を多く作る人は治りにくいのです。そしてやっかいなのは、善玉、役なし、悪玉のどれが増えているかは、ウイルスを培養細胞にかけて感染試験をしないと分かりません。そのためには高度な設備を持つ研究機関でないとできず、そうした研究施設は極めて限られているのが現状です」――抗体だけで免疫を語るなということですが、集団免疫についてはどうですか。 「先ほども述べたように、自然免疫だけでウイルスを撃退する人もいるのですから、抗体の保持率だけを考えるのは意味がありません。それと、集団免疫を考える時、一度獲得した免疫が長期間にわたって続くことが前提ですよね。すぐに免疫が消えてしまったら、多くの人が免疫を持っている期間がなくなってしまうわけですから。しかし、新型コロナウイルスの免疫が続いている期間はとても短いようなのです。私は半年程度ではないかと考えています。免疫が半年程度しか続かないとしたら、集団免疫はいつまでたっても獲得できないことになります」, 自然免疫をフル稼働させるには 「先ほどの武漢医科大学の研究では、8週間後にもう一度抗体量を測定したところ、軽症者で4割近く、重症者でも2割の人が抗体が検出不可能なほど少なくなり、持っている人も抗体量は8分の1程度に減っていました。こんなに早く抗体の量が減るのは、ほかのウイルスではあまり考えられないことです」 「破傷風やポリオなど、ワクチンを一度打てば免疫が数十年も続く病気もあれば、インフルエンザウイルスのように、3カ月程度しか続かないものもあります。私は新型コロナウイルスはワクチンが出来ても、インフルエンザと同じように有効期間は極めて短いものになるのではないかと考えています」 ――新型コロナウイルスに対抗するためには自然免疫が大切だということですが、自分の自然免疫の力がどの程度のものか、測定する方法はありませんか。 「自然免疫を測るものとして白血球の数があります。簡単に測れますが、これは機能を表すものではありません。血中のナチュラルキラー(NK)細胞を刺激して自然免疫の強弱を測る方法が最近、がん患者さんに使われるようになりましたが、まだ一般的ではありません。残念ながら、自然免疫の力を簡単に測れる物差しは今のところありません」 ――免疫を強くするために、私たちは何をしたらいいのでしょうか。 「免疫を強くするといういい方は適切ではありません。免疫が強くなりすぎると、健全な細胞を攻撃することになりますから。各種のアレルギーや関節リウマチなどは、免疫が強くなりすぎた結果です。強くするのではなく、自分が持つ免疫がフルに活躍できる状態に保持することが大切です。そのためには、まずはストレスの少ない生活をすること。なかなか難しいですが。リンパ球は血液の流れに乗って全身をパトロールしていますから、有酸素運動をしたり、毎晩お風呂に入って体温を上げたりして、血流をよくすること。 もう一つは、免疫は体内時計がつかさどっているので、昼間は免疫が強くなり、夜は弱くなります。ですので、体内時計を毎朝きちんとリセットして、規則正しい生活をすること。朝日を浴び、軽い体操や散歩するなどして、体内時計が狂わないようにするのは大きな意味があります」 ――食事はどうですか。 「私は乳製品をよく食べ、納豆も好きですが、これ一つだけ食べれば、免疫を強くする、なんていう食品はありません。何事も過ぎたるは及ばざるがごとしです。満遍なく、バランスのよい食事を心がけることでしょうか」 「免疫は加齢が非常に大きな要素です。50代を過ぎると、免疫力は半分になると言われます。新型コロナウイルスの重症者の95%は60代以上というのは、うなずける数字です。獲得免疫はさまざまな病原体を記憶しています。ですから高齢者は免疫の経験値は高いのですが、それぞれの免疫が弱体化する。いわば、免疫も老兵化するのです。そして数も少なくなります。元に戻すことはできません」, ウイルスは変異してる?――新型コロナウイルスは変異が速いと言われます。それで第2波、第3波は病原性が大きく変わり強くなって襲ってくるという説があります。 「変異が速いのは間違いありませんが、それはRNAウイルスの特徴です。でも他のRNAウイルスに比べ、変異の幅は大きくない。遺伝子をコピーするときに、エラーが起きるのですが、コロナウイルスはそれを修復するメカニズムを持っているのです。たとえば、同じRNAウイルスであるインフルエンザウイルスは変異の幅が大きい。だから、ブタやトリからヒト、またヒトから動物へ感染する、とんでもない変異を起こす。新型コロナウイルスで、明らかに病原性が高まった変異は今のところありません。病原性の強さでいえば、大体同じくらいです。 一部に、『日本では最初に病原性が弱い新型コロナウイルスが入ってきて、その後に病原性の強い新型コロナウイルスが入ってきた。日本人は新型コロナウイルスの免疫が出来ていたから、死者が少ないのだ』という説を唱える人もいますが、これまでのところ、病原性の強弱に明らかな違いのある変異は確認されていません。 変異といっても、悪い方向への変異もあれば、良い方向への変異もある。五分五分です。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)は致死率が高く、宿主が死んでしまうので、結局ウイルスも死んでしまい、人間社会に定着できなかった。新型コロナウイルスはSARSやMERSの近縁ですが、重症化する患者は2割で、病原性は強くありません。だから宿主が死んでウイルスが消滅することはありません。しばらく、私たち人類は新型コロナウイルスと共生する社会ことになるでしょう」, 私たちの暮らしは・・・ ――新型コロナウイルスが猛威を振るい始めて半年。相手の素性がだんだん分かってきたところで、免疫学者として、私たちはどんな対策を取るべきだと思いますか。 「練習で大声を出すため、相手に飛沫が飛ぶことを懸念した全日本剣道連盟に頼まれ、私が実験した結果、①よほど大きな気合を出しても多くの飛沫は2メートル以下で地面に落ちてしまい、1.5メートルの距離を取れば直接に飛沫を浴びる可能性は極めて小さい②マスクを着用すれば9割の飛沫の飛散は防げる③微少飛沫は残るが、換気すれば飛散することが確認できました。従って、他人と1.5メートルの距離を保つ、他人に感染させないためにマスクを着用する、換気する、しっかり手洗いする、といった緩やかな接触制限と行動変容で対応できます。一時期言われた、人々の全体の接触率を8割減らすといったマスの対策は必要ないと思います。 ワクチンが出来れば、新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同程度の病原体となりますが、作りやすく、安く作れる良いワクチンが出来るのには2年以上かかるでしょう。重症化を止める薬が出てくれば、普通の感染症となりますが、それにはまだ時間が必要でしょう。しばらくは、新型コロナウイルスと共生していかなくてはなりません」(聞き手・畑川剛毅), 大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授・宮坂昌之さん 宮坂昌之(みやさか・まさゆき) 大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授 1947年、長野県生まれ。73年京都大学医学部卒。81年オーストラリア国立大学ジョン・カーティン医学研究所博士課程修了、PhD(免疫学)取得。スイス・バーゼル免疫学研究所メンバー、東京都臨床医学総合研究所免疫研究部門・部長などを経て、94年、大阪大学医学部教授。2012年、名誉教授になると同時に現職に就任。 主な著書に『標準免疫学』、『免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か』、『免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ』など。 趣味は剣道。七段錬士。モーツアルトとバッハを愛し、赤ワインを好む。, amamuさんは、はてなブログを使っています。あなたもはてなブログをはじめてみませんか?, Powered by Hatena Blog